中小企業診断士 福田裕子 公式サイト【リッカ・コンサルティング】

case 事例紹介

女性3人で新規就農

 サカール祥子さん(合同会社十色代表)との出会いは起業の数年前。彼女が働く福祉農園で、ビール麦を試験栽培してもらったことがきっかけでした。彼女は「見沼田んぼ」と呼ばれる田園地帯で、障害を持つ方々と一緒に野菜や米を栽培していました。

数年後の2021年春、サカールさんから「新規就農し、会社を立ち上げたので相談に乗ってほしい」と連絡がありました。農業ボランティアで関わりのあった女性3人で、見沼田んぼの生態系を守るため、農薬や化学肥料を使わない農業をはじめたのです。しかし、最初から簡単にはいきませんでした。

販路がない!

 十色のビジネスモデルは二本立て。1つは環境保全型農法の田んぼや畑を使った、親子向けの農業体験サービス。こちらは前職でノウハウを持っていたので、安定した売上を見込めました。そしてもう一つは「とうがらし農園」。

 彼女たちは起業前にさまざまな野菜を試作したそうです。その中で、一番栽培して「楽しい!かわいい!」と思ったのが、スパングルスという、ブラジル原産のカラフルなとうがらしでした。他にも十数種の生とうがらしを栽培して、販売していきたいと言います。

 フクダは「さいたまヨーロッパ野菜研究会」の事務局をしていましたので、こういう珍しい作物の需要はあると思いました。しかし、珍しい作物は売り先を探すのがとても難しいのです。

「売り先はありますよね?」と尋ねると「実は、もともと予定していた売り先がなくなってしまいました。夏には2トンのとうがらしができる予定なんですが、どうしましょう?」

それは大変だ…

苗が作れない!

もうひとつの難題は、とうがらしの苗づくりでした。農家は野菜の苗を自分のビニルハウスで作ったり、苗屋さんにお願いして作ってもらったりします。就農したばかりの十色はビニルハウスがないため、苗屋さんを探したのですが、春先はどこの苗屋さんも忙しく、すべて断られてしまったのです。

そこで、とうがらしの品種開発を行っている地元の種苗会社、トキタ種苗さんにサポートをお願いしました。苗の入手先を確保してもらい、なんとか植える苗を用意することができました。

激辛コミュニティをつくる

 「ところで3人は、とうがらしに詳しいの?」と尋ねると、「実は私たち、辛い物が得意じゃないんです。」…さらに大変だ。

フクダの友人知人には、さまざまなジャンルの「食のマニアさん」がいます。そこで、激辛マニアの友人に相談して、「十色とうがらしファーム」の激辛SNSコミュニティを立ち上げました。

世の中には人智を超えた激辛好きがいます。そういう「激辛マニア」「激辛系飲食店主」「とうがらしを扱う青果卸さん」など、十色にとうがらしの知恵とアドバイスを授けてくださる「激辛賢人」たちが集まりました。7月に収穫が始まると、激辛賢人たちを畑にお招きし、味や香り・辛味の評価や、品種選びのアドバイスをしていただきました。

「さいたまを激辛の聖地に!」クラウドファンディングに挑戦

次に販路です。売り先がないので、クラウドファンディングに挑戦することになりました。

一緒に考えたキャッチコピーが「さいたまを激辛の聖地に!」

フクダは文章を推敲したり、リターンの品を企画したり、十色のメンバーと何度も打ち合わせしてプロジェクトに挑んだ結果、支援総額は1,537,500円となりました。

さらに2年目には2回目のクラウドファンディングに挑戦、2,146,400円の支援を受けることができました。

ないないづくしの新規就農

新規就農1年目の機械設備は小さなトラクターと刈払い機、資材を入れる物置小屋程度しかありませんでした。雨風を凌げる作業スペースも電気も水道もないので、収穫したとうがらしは、自家用車のトランクを台にしたり、畑の片隅に簡易なテーブルを置いたりして袋詰めしていました。近くに協力してくれる農家さんがあれば…

そこで、近隣で大きなハウスをいくつも使っている園芸農家さんをご紹介しました。非常に親切な農家さんで、作業場所や大型の農機を貸してくださいました。その後も栽培技術を指導してくださるなど、家族のような付き合いになりました。

ビジネスプランコンテストで入賞

資金も足りません。農業法人でスタートアップの場合、実は農業系以外でもいろんな補助金・支援制度が使えます。使えそうな補助金を片っ端から紹介して、挑戦していきました。

埼玉県が主催する、女性向けのビジネスプランコンテストにも挑戦しました。フクダはビジコンの運営経験があるので、対策は得意です。ファイナリストに進む過程で、サカールさんと今後の事業計画を徹底的に話し合ったことが、その後に事業規模を急ピッチで伸ばしていくための基礎になりました。

結果は審査員特別賞受賞。その後もさまざまなコンテストに挑戦し、受賞しています。

十色は新規就農者、しかも農薬・化学肥料不使用で女性だけですから、創業当初は農業関係者からも「本当に農業を続けられるのか?」という疑いの目で見られていました。

こういった「公的なお墨付き」をもらうこと、そして何よりも「畑をちゃんと管理して売上を上げている」姿を見せていくことで、周囲の対応もみるみる変わっていきました。

ブランド作り「畑はエンターテインメント!」

十色メンバーは農業ボランティア出身で、福祉作業所との連携も行っていたことから、畑にはさまざまな人が出入りしていました。畑に他人が入ることを嫌がる農家もいますが、十色は誰でもウェルカム。ボランティアやアルバイトで畑に来る人たちも、みんな生き生きと楽しそうにしています。

体験農業も行っていたことから「畑はエンターテインメント!」というブランドコンセプトを作り、これを十色のブランディングの基本的な考え方としました。

とうがらしも、普通の売り方ではなく楽しく売ろうということで、畑でテキーラを飲みながらメキシカンBBQパーティをしたり、激辛とうがらしのオーナー制度を作ったりして、多くの人がとうがらし畑を訪れるようになりました。

畑を訪れた人たちは、カラフルで香りも辛さもさまざまなとうがらしに魅せられ、楽しそうに農業を語る十色メンバーのファンになりました。その結果、さまざまな飲食店や食品メーカーさんと「コラボ企画」「コラボ商品」が生まれ、販路も広がっていきました。

メディアに出まくる

フクダは数百回のメディア取材に対応してきた経験から、TVや新聞などのメディアが「とうがらし専門農園」に興味を持つことは分かっていました。そこで、メディア向けのプレスリリースをお手伝いしたり、SNSなどでの対外的な「見せ方」をアドバイスしていきました。

その結果、十色は多くのメディアに取りあげられました。「食彩の王国」「満天!青空レストラン」などのグルメ番組、農業関連の番組、NHKニュースや新聞にも、何度も取りあげられました。有名なメディアに取りあげられることで、ネット通販やスーパーなどの販路も広がっていきました。

就農4年でとうがらし売上が5倍以上に

 何事にも前向きでアグレッシブ、そしてタフな十色のメンバー。就農4年目でとうがらしの売上は5倍以上になりました。とうがらし畑の面積は1㏊を越え、需要も伸びています。

「さまざまな人に働く場所を提供したい」との思いから、近隣の福祉事業所に農作業や袋詰めを委託したり、雇用の場を作ることもすすめています。

十色の野望はまだまだこれから。フクダも伴走の甲斐があります。